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歌雪の手記二話

2008-03-08 Sat 17:54
スカウトふたり――春雪の弓使い――

高山地帯でところどころに温泉も湧き出ている寒冷地。
澄んだ、冷たい空気が肌に沁みる。深く息を吸い込めば、山間から湧き出る湧き水の匂いがした。
私はいま、アベル渓谷へと足を運んでいた。理由はまぁ、単純なこと。
天然の温泉を探しに来たのだ。たまに取れた休暇は、大概こうした旅行に費やされる。小さなかばんひとつ手に、私ははるばるこの高山地帯まで歩いてきた。
スカウトとして過去に培った経験から、野宿や狩猟といったものは手馴れていて、それだけに普通よりも手軽に旅行に出れるのが強みだろうか。
かつて愛用した弓と、短剣をもって、渓谷の奥へ奥へと進んでいく。
湯気の上がるような地域は見られず、温泉は近くにないらしい。そのことに僅かに落胆しつつ、高く上ったお日様をみて、今が昼食時なのだろうと休憩をとることにした。
動物達の水飲み場で狩りをしてはいけない。コレは自然のルールだ。しかし、スカウトはそのルールを守る。私は水場から離れながら獲物――手ごろなサイズで鳥がいい――を狙うことにした。
見つけた鳥の群れは水場から大分はなれていて、ここなら問題はないだろうと弓を構える。
狙いをつけ、心を沈め気配を殺す。動物達は非常に敏感だ。ゆえに、決して殺気を放ってはいけない。無心であることが大前提である。よく構えて狙って、2発。矢を解き放つ。
狙いは寸分狂わずに鳥を二羽落とすことに成功した。
それと同時、反対側からも矢が放たれた。放たれたのは5本で、全ての矢が鳥を一羽ずつ打ち落としていた。
「へぇ・・・たいした腕前だわ」
思わず率直な感想を口に漏らした。鳥をまとめて5羽落とせるとなれば、かなりの腕前であるのは明確だ。向こうもおそらく此方には気づいたことだろう。
これだから・・・旅はやめられない。今日も素敵な出会いがありそうだ。

射落とした鳥を拾いに行ったところで、彼女と鉢合わせした。彼女――そう向かい側から弓を放ったのは女性だった――は私のことを見つけるや即座に警戒態勢をとった。とはいえ武器を構えるわけではなく、意識レベルで。
ほぼ間違いなく、カセドリア所属の傭兵だろう。ここは一応隣接区域が敵国――ゲブランド帝国という――いってしまえば戦場となる可能性が極めて高い地区でもある。
向こうが警戒する理由もおそらくそれだろう。
服装を見ればそのまま戦場に出れる、アサシンセットを着込んでいた。暗褐色を基調として、体の主要部分を抑え、それでいて微妙に露出がある、特殊な繊維で編みこまれた服。かなりの熟練者でなければ着ることも許されず、また手に入れることも困難な装備だ。それに、薄いピンク色の髪がよく映える。かなりの手腕なのだろうが、なぜにこの地域にいるのかがわからない。
もしかしたらゲブランド帝国からの攻撃を警戒しての斥候なのだろうか?
「はじめまして。さっきの弓はあなた?」
「・・・・・・ほかにだれがいると?」
「ん、たいした腕前だなとおもって、ね」
明らかに警戒されている。無理もないか。
「あんまり警戒しないで?私はメルファリア新聞社、カセドリア支部所属の歌雪っていうの。今日はオフでね、ちょっとした小旅行ってところでここまで来てるんだけど」
「信用できるわけがないでしょ」
にべもない。まぁ、それは当然の反応かもしれない。お互いスカウトとしての技量があるのであれば、騙しあいだって戦術の一つになる。警戒させるには十分だろう。
「んー・・・じゃあ、こうしましょう」
そういって、自分の持っている短剣と弓を手渡たそうとする。すでに一度折れて修理したほどに使い込まれた短剣、ユダ。そして、私がもっとも長く愛用していて・・・今ではもうほとんど使われていない弓、グランパス。
自分の獲物をあっさりと渡そうとする私を見て、彼女はつまらなそうに言う。
「敵意がないことはわかったわ。あいにくそんなもの持つ余裕はないから自分で持って」
「判ってもらえてうれしいわ。よければ火をお借りしたいのだけど、いいかしら?」
彼女はしばらく黙った上で、
「・・・・・・好きにすれば?」
ううん、そんなに私警戒されるタイプじゃないんだけどなぁ・・・。

「師匠、客人」
崖の裏側にテントが張ってあった。そこでは武器を研ぎながら待つ一人の男性の姿があった。研いでいる刃物はかなり高価な短剣、アントリオン。腕にはめ込むカタールのような短剣で、非常に耐久性が高い実用性の高い武器だ。
銀色の短髪。クレアボセット(かなり高価)とその他戦争の報酬でもらえるリング出なければ手に入れられないような装備を組み合わせて全体的に暗色を基調とした服のその男性は、こちらを見るなり手を振ってきた。
正直対応の違いに戸惑いつつ手を振ると、彼は腰を上げて近寄ってきた。
「ユアリス、おかえり。おお、うまそーじゃん」
「3羽でよかったよね?」
「OKOK、・・・で、そっちの女性は?」
「メルフェリア新聞社所属の歌雪ってひとらしい。火貸してほしいって」
「へぇ、新聞記者?はじめまして、とらふぐって言います」
「歌雪です、よろしく」
此方はどうやら警戒をほとんどしていないらしい。いや、警戒されているというよりも、先ほどの彼女――ユアリスと呼ばれていた――は初対面の人間が苦手なだけなのかもしれない。
見れば彼女はさっさと鳥の羽をむしり始めていた。私も準備をしなくては、とおもい隣に座る。とらふぐと名乗った男性もそばに来て、かまどの準備を手際よくこなしていく。
「そういえば、歌雪さんはなんでこんなところに?」
かまどに火をつけながら、思いついたように聞いてきた。
「温泉をね、探しにきたんですよ。休暇ぐらいバカンスを楽しみたいから」
「温泉なら・・・もう少し山間を進んだところにあるわよ」
「ホント?やった♪」
多少慣れたのか、会話にも混じるようになってくれた。そのまま3人での、他愛もない昼食会が開かれる。
塩と胡椒が尽きていたらしいので、私の持ってきた分を分けてあげた。やはり男性はしっかり食べるもので、3羽の鳥の丸焼きが骨だけになるのに時間はかからなかった。たくましい男性はイイわよね。
話してみれば、この二人は実戦訓練をかねて山篭りしているのだという。
昼食を食べてしばらくしたあと、二人は再び訓練を始めた。つかっている武器は木を切り出して作った木短剣である。流石に本物の刃物使うわけにはいかないよね。
「それじゃ、はじめっ!」
合図を出してくれ、といわれて私が合図を叫ぶ。二人は離れた場所からお互いに相手の動きを伺うようにしながら、じわじわと距離を詰めていく。
ユアリスさんが一歩踏み込んだ瞬間、それを狙ったようにとらふぐさんが跳んだ。ほとんど水平に、まるで矢のような飛び出し方。それに即座に反応して左側にステップで避けるユアリスさん。しかし、それを見切っていたかのようにとらふぐさんは片手だけで追撃を仕掛ける。
その短剣の追撃を彼女は巧みにかわし、背後へと回る。振り向きざまの彼女の斬撃は彼を捉えていた。
彼はおそらく来ることを予測していたのだろう。振り向きもしないままにその攻撃を受け止めると、振り向きざまに足払いを仕掛ける。
よけ切れなかった彼女はとっさに手をついて体勢を立て直す。その手をめがけて彼は追撃を仕掛けるが、彼女は腕だけで跳躍した。
この後は接近戦だった。
カンっ、カツっ、ガッ、ガガッ、カァン。
何度も何度も木がぶつかり合う音がこだまする。
この二人、正直恐ろしいぐらいに腕がいい。こんな攻防それなり程度の熟練者では手に余る。スカウトとしての技術を極めようとする、高みに到ろうとする二人の攻防に、私はしばし見とれてしまった。
打ち合いは数時間に及び、結果としてとらふぐさんの僅差による勝ちになった。
「お疲れ様」
といって二人にタオルを渡してあげる。疲れ果てている二人は軽く汗を拭いただけで木陰に腰を下ろす。
「やっぱり、1歩とどかない・・・」
「いあ、クセと相性によるものが大きいだろ。十分戦えてる。問題ないさ」
「・・・そうでしょうか?」
「私から見てても、ちゃんと動けてると思ったよ?」
「・・・傭兵でない方からそういわれても、正直受け取り方に困ります」
「それもそうね。ごめんなさい」
傭兵でない・・・そう、私はすでに傭兵ではない。だから、口を出す資格は・・・ない。
「お前はまだまだ上達する。俺が保障するよ」
正直、うらやましい師弟関係だ。私は、こんな師匠に恵まれたわけでもなければ、弟子だって居なかった。対等な関係の相手は居たが・・・それも今は居ない。
「ま、温泉にでもはいってさっぱりしようや」

すでに夜の帳が折り始めた頃、大きな岩をひとつ隔てて3人で温泉にはいった。
空を見上げれば、空が近い山の上だけあって満天の星空が広がっている。
冷えてきた空気が心地よい。
「なぁ、歌雪さん」
「ん、なんですか?」
「記者ってことはさ、戦場での噂話とかも、詳しいのか?」
「んー、それなり・・・ですかね?」
「ユアリスがさ、知りたい話しがあるらしいんよ。知ってたら、何か教えてほしいんだけどさ」
「・・・いきなりですね」
「前から知りたがってたじゃないか、春雪の弓使いの話」
春雪の弓使い・・・その言葉を聴いた瞬間心臓がドクンと高鳴る。
「まぁ、私がまだ若くて・・・もっと未熟だった頃に聞いた話なんですよ」
そして彼女は語りだす。忘れられたはずの戦場の伝説。春雪の弓使いの話を。

少し昔、カセドリアがまだゲブランド帝国の支配下にあったころ、独立戦争があった。
独立戦争の象徴となったのは現カセドリア連合王国の党首、ティファリス。指導者はその側近ウィンビーン。ウィンビーン率いる弓手隊に、ゲブランド所属のソーサラーたちは苦戦を強いられた。
その中でも、ずば抜けた一団がいたという。
一説では、カセドリア連合王国が秘密裏に特殊訓練を施したといわれる集団で、組織としての名はなかったと告げられている。
その一人に、とんでもない一人のスカウトがいた。という噂。
「その人は、春雪の弓使いと呼ばれた人で、たくさんのソーサラーを狙撃して・・・または短剣で、切り伏せていたそうです」
春雪の弓使い。弓使いとは名ばかりで、短剣のほうが卓越していたという話もある。
春雪のように、突然現れ、そして気づけばその姿は溶けたように消え去っているという、神出鬼没のスカウト。
狙った相手を決して殺すことはなく、重症を負わせても決して後遺症を残さないような傷を与える。戦場の兵士としては一風変わった存在だった。
しかし、彼女は切り伏せたすべての敵兵士――それこそ、ウォリアーもスカウトもソーサラーも関係なく――ある手紙を残したという。
『次に戦場であったら、また同じことをしてあげる。』
そう書き残された手紙をゲブランドの兵士がことごとく受け取ったのである。否、受け取らされたのである。
手紙に残された雪の結晶のマーク。それは、ゲブランドの兵士達の間で噂として広まり、やがて兵士達の戦意を失わせた。
そうしてカセドリアが正式に独立したころになって、彼女は戦場から姿を消した。という。

「ああ、知ってるわ。その話は・・・何が知りたいの?多くは知らないけど・・・」
嘘。知っている、という表現では足りない。
「何が・・・知れるのなら、消息・・・・ですかね?」
「知ってどうするの?」
「・・・・・・・会って、みたいんです。私、昔からずっとあこがれていて、一度でいいから話をしてみたくて・・・」
彼女の顔が紅潮しているのは、果たして温泉の熱気だろうか・・・それとも・・・。
「彼女の本名も、顔も・・・私は何も知りません。だけど、今のカセドリアがあるのはあの人の影響が大きいとおもってます。もちろん、一人の力なわけは・・・ないんですけど」
そのとおり、たった一人の存在で戦争の結果が変わることなどあるわけがない。
彼女がどれだけ・・・どれだけ卓越したスカウトだったとしても、それは大きな流れを形成する流れのほんの一滴に過ぎないだろう。
「今どうしてるのかは俺も知らないんだよな。容姿ぐらいか、聞いたことがあるのは」
こいつと知り合ったのもそれがきっかけみたいなもんでな。と、彼は言った。
「容姿って、どんな?」
「知らんのか?こいつとおなじ、薄いピンク色の髪に、ダークサイドジャケットを着こなしてたってぐらいか。愛用してる短剣がユダだ、とかいう話もあったかな・・・あれ?」
そこまで話して、歌雪さんと似てるな。と、彼は笑いながら言った。
無意識に左腕にある傷をさする。忘れたくても忘れることを許されない過去が、除いた気がした。
「・・・消息、ね・・・私の知る限り、春雪の弓使い、レイリア・スノウと名乗っていたスカウトの女性は・・・死んだわ」
「・・・ぇ?」
信じられない、といった風に・・・彼女は反応した。
「一瞬の油断が命取りになるのは、どこの戦場でも同じでしょう。彼女が扱っている短剣が折れた一瞬、その一瞬のミスが、彼女の命を奪ったのよ。両手ウォリアーの巨大な武器で・・・派手に吹っ飛ばされたらしいわ」
「そ・・・・そうです、か・・・」
彼女の落胆振りは正直かわいそうだったが、私の知る真実はそうなのだ。
春雪の弓使い。レイリア・スノウは・・・傭兵として、死んだ。
そう・・・・・・・・・死んだのだ。
その後、彼女は寝るまで、落ち込んだままだった。
寝る前に、私はその春雪の弓使いに会ったことがあるといって、いろいろとはなしてあげたが反応は薄かった。やがて寝入った頃、私はそっと寝床を出た。

「・・・空が、綺麗だわ」
見上げた空は、まるで宝石をちりばめたようだった。
散り散りに、砕いて・・・ちりばめて・・・。
「肩の怪我は大丈夫?」
「ん・・・・・・何時から、気づいてたんですか?」
気配は感じていた。だから、驚かない。
「最初に見たときから、かな・・・どう見ても、普通の怪我じゃない。そう・・・たとえるなら、戦場で両手ウォリアーから完全に不意の一撃を食らったような・・・そんな傷だよね」
「・・・昔の、自分の愚かさの代償ですよ、おかげでもう、弓も短剣もまともに持てないんですよね」
彼は、気づいているのかもしれないと、私は思った。彼女、ユアリスさんのほうはあまり詮索もしなければ、まだ若いから人に対する感も鈍いのかもしれない。しかし彼は・・・独立戦争時代にそこそこの年齢だっただろう。違和感を感じる可能性は十分にあった。
「一度、街中で春雪の弓使い・・・見たことがあるんだ。あなたによく・・・似てた」
「よく言われます、聞き飽きちゃいましたよ」
「最初は本人なんじゃないか、っておもったけど・・・流石に違うかな?年齢が若すぎる気がするし」
私は、なにも言わなかった。ただ、眠くなるころまで・・・空を眺めていた。

翌朝になって、私はそのまま二人と別れた。今頃二人は最前線で戦っていることだろう。
連絡先は教えてもらったから、そのうち会いに行くつもりだ。
パタンと、手帳を閉じ、部屋を出る。
手帳から、3枚の写真が零れ落ちた・・・・。

歌雪


ユアリス


とらふぐ


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あとがき、この歌雪の手記は、不定期更新メルファリアニュースにおいて連載していたものを一部修正したものです。
作者=ブログの管理者であり無断転載の類ではありません。
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