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歌雪の手記 七話~十二年目の真相、レイリア・スノウの消息~

2008-09-14 Sun 05:14
「今から話すのは私のただの昔話よ・・・」
 そう、前置きをした上で私は話し始めた。
「十四年前、カセドリア独立戦争時代」
 くだらない、救いようのない話だ。棚からウィスキーを取り出して注ぐと配りながら、続ける。

「当時私は十歳で、場末の娼館の娼婦だったわ」
 この一言で全員が眉をひそめた。人聞きが悪いかもしれないが、当時はそうした環境だったのだ。仕事もない、親もない子供たちはその日のパンのために盗みを働き、体を売る。そうした時代、そうした世代、そうした民がまぎれもなく存在した。
「ま、よくある話ね。妹が二人いたから、手段を選ぶ余裕はなかった。私が軍に・・・刃物の扱いで見込まれたのはその頃。軍にくるのなら妹二人の衣食住の面倒を見てやる、という交換条件だったわ」
「軍規違反じゃないですかっ!」
十六歳未満の子供を軍属に上げることは軍規違反として厳しく止められている。
「どこもやってることよ。そうでもして人を集めなければカセドリア独立は成功しなかったとまでいわれ、歴史の闇に葬られたけどね」
 席を立ち、机の上においてあった写真立てを持ってくる。その写真立ての裏にはかすれた字で「カセドリア独立戦争終戦日前日、レイリアと・・・」と記されている。
「この写真の小さい娘が、当時の私。そしてその隣にいるのが、レイリアよ」
「この人が・・・レイリア・スノウ」
「違うわ」
 短く訂正する。彼女の名前は冬のような寒々しいものではない。彼女を知っているものならば彼女を表現するとき誰もがこう言うだろう。暖かい春の日の風のようだと。
「彼女の名前は、レイリア・スプリングス。私に弓の使い方を教えてくれた・・・卓越した弓使いよ。そして私は、彼女に短剣の扱い方を教えていた」
 写真立てをそっと置き、話を続ける。昔の懐かしい記憶は、十四年たった今でも鮮明だった。忘れることの出来ない記憶というのはおそらくそういうものなのだろう。
「私は隠密行動と近接戦闘、彼女が遠距離からの援護射撃。活動は僻地中心だったけど、私たちは負けなかった」
 グラスに注いだウィスキーを舐めるように少しだけ飲む。もともと酒は強いほうではない。今の私にとってお酒は苦痛を紛らわせるための道具でしかない。
「何度となく戦場を駆け抜けてきたわ。劣勢の戦場ですら、無謀と思える作戦を敢行してぎりぎりの一線で勝利をつかんで・・・独立のために戦っていた」
 あのころ、間違いなく私はカセドリア独立のために戦う勇士だった。理由は、個人的なことだったけれど。
「終戦日だったわ、カセドリア独立戦争の最終戦で、私たちは勝った。けど、それを認められなかった一人の敵兵がいた。かなりの重症だったから、戦争が終わったと冷静に判断できなかったのかもしれないわね。敵兵は動かない左手を引きずりながら、両手斧を右手だけで持ち、思い切り襲い掛かってきた。終戦に気が抜けた私はそれに気づくのが遅れたのよ。気づいたときにはよけられない状態だった」
 左腕をさする。今も残る古傷が、ずきんと痛む。まるで心の傷のように、それは癒えることを知らない。
「彼女がかばってくれた、おかげで私は腕の傷だけですんだわ。でも彼女は・・・帰らぬ人となった。私は、二人の命を奪った」
「二人?」
「身ごもってたのよ、知ったのは・・・その後だけどね。彼女の夫・・・クルトから思い切り殴られて、殺されかけた。周りにいた人が止めたけど、私は本当はあのままあそこで死んでいるべきだったのかもしれないわ」
「そんなことはないですよ、守られて助けられた命なら、そんなことで失ってはいけないはずです」
 返事はしなかった。おそらく、今の彼も同じことを言うのだろうから。
「彼女は軍から除籍されて、私は軍から退役して・・・そして、春雪レイリア・スノウの存在は消えた」
「・・・ちょっとまってください、まさか」
 何かに気づいたのだろう、私を見る目が変わっている。この目だけは慣れない。憧れと、畏怖と、驚愕の入り混じった瞳が私は嫌いだ。
「歌雪、っていうのは私の本名じゃないのよ。私の本名は、スプリング・スノウ」
「春・・・雪?」
 歌雪、というのはレイリアからもらった名前だ。だからこそ、私にとっては本名以上に価値のある、大切なものだ。
「レイリア・スノウは死んだ、けれどあなたたちの目の前にいる、つまりそういうことよ」
「レイリア・スプリングスと、スプリング・スノウ。あわせてレイリア・スノウ、か」
 今まで黙っていた赤髪のウォリアーが結論をまとめた。そのとおりだった。
「個人名でなく、チーム名だったわけですか・・・」
「そうね、個人名として扱われていたのは、私を表に出せなかったからでしょう」
「目撃証言も一致しないわけだ・・・弓使いの女性と、短剣使いの少女・・・か」
 誰もが何もいえなくなり、暗い沈黙が部屋を支配した。
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