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イグドラシルの継承者 過去編1

2008-06-08 Sun 21:45

 いったいどれだけ走り続けたことだろう。
 目指す物はいまだに見えない。
 縦横無尽に走る樹の根の道を唯ひたすらに前へ前へと急ぐ。その目指す先にあるもの――それは・・・。
 1年前、使命として与えられた内容は途方もなく大きく、しばし私の思考を停止させた。
 それが来るべき大戦のための準備であると知らされ、猶予がないと知ったとき何度逃げようと思ったことか。
 それを隣で支えてくれたのは紛れもなく最高の相方である彼女、ユリアだった。
 よく笑い、怒り、そして誰に対しても分け隔てなく接する彼女は、一つの理想でもあった――
 この一年で多くの仲間を集め、来るべき大戦に備えて万全とはいいがたいまでも、出来うる限りの体勢を整えるためにお互い全力を尽くす中で、この大戦が無事終わったらそのまま、今まで思っていたことを全て告げようと決めていた。
 唯どこまでも信用できる存在であった、まるで自分の半身のような彼女とずっと共にありたい。おそらく私の持つ感情は特殊だろうが、それでもかまわなかった。

「ここは私が足止めするから、リーシアは先に行って」
 彼女がそう告げたとき、私は足を止めてその場で共に戦いたかった。
 彼女がいくら至上の天才と呼ばれ、ハイプリーストという職に就き、神官騎士団の団長を勤め、職業の制限すら踏破しているとはいえ、敵の数はおそらく千は下らない。いや、後から後から増え続けるそれに、際限があるのかどうかすら定かではない。
 そんな状況。
 私はしばし逡巡し、彼女を信じて一人先に進むことを決めた。
 なぜなら、共に今まで歩み、唯一隣を共に歩けるであろう自分の半身がそう言ったからだ。ならばその言葉を疑う余地は無い。
「わかったわ。ユリア、武運を」
「えぇ、リーシアも・・・終わったら祝杯を挙げましょ。とっておきのワインがあるの」
 その軽口も、彼女なりの気遣いの仕方だった。彼女はいつも何かあれば、それが終わった後のことを話す。それが、未来を強く思い描きここでは終わらないという決意を現す一種の儀式であると、いつだか聞いたことがあった。
 目指す方向を向くと、私は全力で走り始めた。この先でおそらく命を賭ける死闘をすることになる。極力体力を温存しなければならなかったが、遅れればそもそも意味を成さない。
 体がふっと軽くなる。ユリアの祝福を感じながら、私はさらに加速して目標までを疾走した。

――一年前――
 ぎしり、とベッドがきしむ感覚に襲われ、私の意識は軽度の覚醒を迎えた。
 ぎしり、とさらにベッドがきしむのを感じ、私の意識は急速に覚醒プロセスをたどっていく。ベッドがきしむということは誰かが居るということだ。
 しかしあいにく私は添い寝するような相手は居ない。ならばこの相手は誰なのだろうかとおもっていると、唇に何かが触れた。
 やわらかく、蜜のような香りをしたそれがなんなのか理解した瞬間、私はベッドから跳ね起きた。
「やっと起きたわね、リーシア」
 悪びれたそぶりも見せず、神官騎士団団長、ユリア・シャープムーンは満面の笑みを浮かべていた。ほとんど化粧もしていないというのにその美貌は相変わらずで、神官騎士団の団員から人気が高いのも頷ける。
 ピンク色の聖職者にはとても似つかわしくない衣装は、彼女が唯の聖職者ではないことを示している。
 ハイプリースト
 グラストヘイムのプリースト全てを束ねる高司祭である彼女は、桁外れの威力の神聖魔法を操り、かつ体術や剣術(聖職者ゆえに刃物は扱えないが)を収めているという異端だ。
 教会は彼女のことを『堕ちた黒衣の聖女』と呼んでいた。
 聖職者の枠に収まらず力を求め続けた彼女を侮蔑しての言葉は、彼女のゆるぎない信念の元、いつしか敬愛をこめて呼ばれるに至った。
 神の加護を失わなかったというその事実、そしてあまねく振りまく優しさと気高さ、そしてその揺るがぬ実力を認められた彼女はグラストヘイム王国の国王から直々に神官騎士団団長の任務を与えられたのだ。
 しかして彼女には一つだけ、不公平な点があった。
 それが私にやけに絡んでくることだった。いろんな意味で。
「・・・朝っぱらからなにをするの貴方は」
「そんなふうに人様を誘う格好で居るのが悪いのよ」
 今の私の格好、それは半分透けたネグリジェという、非実用的な姿であった。
 正直な話、私は自分の見た目には自信がある。もともとダンサーであり宮廷楽団の一員でも会った私は人に見られることが仕事だった。諸般諸々の理由でいつの間にかとんでもない立場に立ってしまったが、それは今でも変わらない。
 そんな私の身についた習慣は、いついかなるときも人に見られていることを意識してしまうということだ。たとえ寝ているときでさえ。
 ゆえに、私は人に見られることを意識した寝巻きを着けている。
 しかし、私の部屋は施錠してありだれも入ってくるはずは無かったのだが・・・いかなる手段を用いてか彼女は私の居城へと入り込んできたわけだ。
「鍵はどうしたのよ。閉めてたはずだけど」
「ああ、閉まってたわね」
 ちょっとまて。閉め忘れたならまだ仕方ないと思う。しかし閉まっていたことを肯定されてしまうといろいろ困るのだが。
「どうやって入ってきたの?」
「合鍵~」
「返せ」
「あら、作ったのは私だから所有権は私にあるわよ?」
 ねぇよ。
 朝っぱらからのあきれたペースに付き合いきれず、私はそばにおいてあった果物かごからりんごを一つ取り出した。ユリアもさらっと果物かごからりんごを一つ持っていく。もうなれたものだがこのずうずうしさがいまいち心を許しきれない原因でもあった。
「で、なんの用なの? 貴女私の部屋に来るときはたいてい夜でしょ、朝に来るなんてここ数ヶ月ではじめてだわ」
「いつも泊まっていく? って聞いてくれないから寝顔を拝みにきたのよ」
「帰れ」
 それだけの理由かいと突っ込みたくなる。口先だけで帰れと言ってみたが、どうせ帰ることもないだろうし、私としても本気ではない。
 いささか踏み込みすぎのきらいはあるが、彼女と過ごす時間は楽しいものではあるからだ。しかし私の予想とは裏腹に彼女は姿勢をただし今まで浮かべていた笑みを消すと至って真剣な顔で継げた。
「国王陛下がお呼びよ。準備が出来次第謁見の間に馳せ参じよ、とのことだけど詳細な内容については聞いていないわ」
 そんな大事な用件をここまで後に回すその神経が信じられなかったが、彼女はそういう性格なのだ。用件だけを伝えてはいさようなら、ということは彼女は決してしない。
 それが彼女なりの人間関係のまわし方だと気づいたのは最近になってからだ。
 こうして、大慌てで私が支度をすることになった。今にして考えてみれば、遊びに来たにしてはやけに服装がきちんとしているとおもったのだ。自分の観察力の無さを少々うらみつつ、私は謁見用の正装を衣装棚から引っ張り出した。
 そういえば最初の唇の感覚のことが頭をよぎったが、忙しさにかまけてそれを追求するのは忘れてしまった。
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