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歌雪の手記 五話 ~逃げられない過去~

2008-06-02 Mon 05:26
 いつ寝たのかもわからないほどに、寝た気のしない夜だった。
 『春雪』
 その名前を聞くことは二度と無いと思っていた。
 12年前、カセドリア独立戦争が終わり、カセドリア連合王国が正式にゲブランド帝国から独立したのと同時に、私はその名前を捨てた。
 ・・・だというのに。




「過去は捨ててもついて来る、永劫に背負わなければならない・・・か」
 机の上においてある短剣が目に入る。
 二本一対の短剣は、片方が折れたままにされている。
今の私に二刀を扱うことは出来ないのだから問題は無い。むしろ、それは戒めに近い。
油断は、永劫の傷を残す。
考えていると気分が滅入ると、私は果物籠から適当に果物を取り出し食べることで忘れることにした。
 その日はどうにも外出する気が起きず、一日を自分の部屋で過ごした。先日とってきたグリフォンの羽を加工するにはちょうど良く、一日で17本ほどペンを作ってみた。
 実際手になじまないこともあるから、たくさん作ることになる。
 気が付けば日はとっぷりと沈み、部屋は暗くなっていた。思いのほか集中していたのだろう、それが切れたとたん空腹が襲ってくるのだから面倒なものだ。
 林檎を取り、齧りながら窓の外を見ていると、すでに人影は少ない。まるで一日が消えてしまったほどの錯覚を覚えてしまう。もっとも、目の前に並んだ羽ペンはそれを否定するが。
不意に、ドアがノックされた。
 コン・・・ココン・・・コン・・・コンコン・・・コココン・・・コン・・・コンココン・・・
 不規則なようで一定の法則にしたがっているそれを、私は忘れるはずが無かった。
 軍用通信の際に使われる暗号、最重要連絡事項を伝えるモールス信号である。
 玄関まで行くと、一枚の封筒が差し込まれていた。
封筒の表に書かれているのは雪の結晶の印。そして中に入れてある便箋には短く
『もう一度雪だるまを作ろう、すぐに溶ける春の雪だるまを』
 とだけ書かれていた。
 私は小さく舌打ちすると出かける準備をすることにした。
出かける先は決まっている。
 ―――この手紙の送り主のところだ。

 街外れの廃屋に、その入り口は存在した。
 軍の、ごく一部の人にしか知られることの無い・・・秘密の地下通路。
 小さなランタンを唯一の明かりに、私はその地下通路へと降り立った。
 湿気の多い地下通路はかび臭く、コケと溝鼠と、水垢がこびりつく異界だ。この通路を知っている者だけが属する世界。私が十二年前に属するのをやめたはずの世界。
 コケの所為で足音が響くこともなく、半刻ほど歩くとやがて明かりが見えてきた。ここがどこであるのかを知っているものは居ない。
 否、知っていても誰も口に出さない。―――出してよい場所ではないのだ。
 どこかの豪奢な建物の一室に、もう会うことも無いと思っていた旧知の者たちが集まっていた。みな、一様に年をとっているが、纏う空気はあまり変わっていない。
 おそらくお互いに同じように思っていたのだろう。久しぶりに顔をあわせた知人は誰もかれもがこぞって驚いた顔のまま固まっていた。
 当時から変わらぬ髪の色と、瞳の色ぐらいしか判別する材料も無いだろうに、彼らは全員が私が誰なのかを見抜いたらしい。
 私は適当にそばにあったソファに腰を下ろした。視線はすぐになくなった。私が戦えないことを、そこに居る者達は知っている。だからこそ、もう関わらないようにしているのだろう。
 それは軽蔑でもなければ排斥とも違う、一種の決別。
 私もそのほうが気が楽だった。
「よぉ、久しぶりじゃねぇか」
「クルト・・・現役だったのね」
「・・・まぁ、な」
 クルト、と呼ばれた男は私の隣に腰を下ろす。壁に立てかけられた巨大な両手斧は使い込まれ細かい傷跡をいくつも残していた。修理しながら、手入れを何度も何度も繰り返し、あの頃から使い続けてきたのだろう。
「・・・なんで戻ってきた」
 顔を見るでもなく、つぶやくように言う。周りからは聞かれないようにと言う彼なりの配慮なのだろう。変わらないなと、小さく嘆息する。
「私だって、来るつもりは無かったわ」
 手紙を取り出す。手紙を受け取り内容を見たクルトは眉をしかめながら封を戻すと私に返してくる。気に食わない、顔にそう書いてあった。
「どこのどいつだかしらんが・・・正気じゃねぇな。十年程も軍を離れてた相手を呼び戻すなんざ・・・正気じゃねぇ」
「まったくね、ブランクと言う言葉を知らないのかしら」
「来るお前もお前だろうが・・・・・・無視しときゃよかったんだ」
 会話は不意に中断された。部屋に、召集をかけた当人がやってきたらしい。仮面をかぶった男はそのままでいいとしぐさで合図すると、勝手に話を始めた。
 話の大まかな内容は、最近の戦線が劣勢であること、他国からの攻撃がより熾烈になっていることなどの現状説明。そしてそれを理由とした新たな部隊の設立だった。
 過去、そして現在に至るも戦果を残した歴戦の勇士を集めた、戦況を揺るがすだけの力を持った部隊を作る。それが今回の目的らしい。
「ねぇ、まだ私のこと・・・恨んでる?」
「あたりめぇだ、恨んでも恨んでも・・・恨みたりねぇよ・・・」
 齢30半ばの男は、深く沈んだ声で答える。
 許されるわけがない、許されてはならない傷跡。
「殺されてあげようか?」
「ほざくな。テメェはちゃんと生きて、ガキ生んで、育てて、そんで老いて、ババアんなって死ね」
 目もあわせずに言う。その言葉の重みに、押しつぶされてしまいそうな錯覚すらある。やっとのことで搾り出した言葉はたったの一言。
「・・・辛いね」
「たりめぇだ、生きるってのはな、死ぬより辛れぇんだよ。命をつなぐってのは、そういうことだ」
 左腕の傷が疼いた。
 しばらくして話が終わり、それぞれがどうするか決め(とはいえ、大半のものはそれに賛同した)残ったのは私だけとなった。クルトも、賛同して行ってしまった。
 部屋に残ったのは二人だけ。
「いかがでしょう、ぜひ力を貸してはいただけませんか?」
「何のつもり?」
 ソファに腰掛けたままの姿勢で問う。それはそのまま、なぜ私をここへ呼んだのかという意味だ。
「私の左腕はいまだに満足に動かない、日常生活をするか、たまに弓を支えるのがいいところよ。そんな私を、なぜ軍へ復帰させようとするの?」
 返事は来ない。
 性質の悪いいたずら、というわけでもないのは目の前にたたずむ男を見ればそれだけで知れる。焦らしているのだ。
 そのまま数秒か、数分か・・・あるいは数時間だろうか・・・時間の感覚が狂うなか、男はようやく口を開いた。
「戦況を左右するのは何も白兵戦の力だけではありません。戦況を見渡し、敵の兵力を分析し、指示を出し、自軍の足りない部分を発見し補う。出来ることはそれこそ山ほどあるはずです、違いますか?」
「足りないわね」
「足りない?」
「私が戻る理由には足りないわ。貴方は・・・私を確実に軍に呼び戻せると思うほどの切り札を持っているのでしょう? 出し惜しみは良く無いわ」
 しばらく沈黙が続き、男はにやりと笑ってその沈黙を破った。
「貴女の腕の傷を治す新しい治療法が確立しました。しかし、これはかなり高価な療法でしてね、軍属でなければ許可が下りません。一般市民に使うにはコストが高すぎるんですよ・・・戻ってくるというのであれば、すぐに治療を受けられるよう手配いたしますが・・・いかがです?」
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続きキタワァー(・∀・)
2008-06-08 Sun 11:01 | URL | シメジ #IjUZIPhA[ 内容変更] | top↑
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